「何度も書いてるのに、全然覚えないんです…」

  • 漢字を10回書いても次の日には忘れる
  • 説明を聞いても頭に入らない
  • 暗記が極端に苦手で、すぐ「わからない」と投げ出す

「記憶力が弱いのかな?」「集中力の問題?」と心配になるかもしれませんが、
実はその子、“情報の入り口”でつまずいている=“感覚の入力”がうまくいっていない可能性があります。

■ 記憶は“脳のノート”に書く作業。でも、その前に…

人が何かを覚えるとき、脳内では次のような流れが起こります:

  1. 情報を五感などから“入力”する(見る・聞く・触る)
  2. 意味づけして“記録”する(理解・整理)
  3. 必要なときに“取り出す”(再生)

この最初のステップ、「入力」が不安定なままでは、いくら書いても、聞いても、“脳の記憶の棚”に届かないのです。

✅ チェック!「入力感覚」のつまずきが疑われるサイン

  • 書きながら「何を書いてるかわかっていない」様子
  • 目の前のものをよく見ているのに“特徴をつかめていない”
  • 話を聞いても「言葉が流れていく」感じ
  • 書く・話す前に、“考えるための材料”が頭に入っていない
  • 覚えたことをすぐ忘れるが、パターンで理解するのは得意

→ これらが当てはまる場合、「記憶力の問題」ではなく、情報を受け取る感覚処理が弱い可能性があります。

✅ 「見る」「聞く」「動かす」=感覚の入力が“記憶の入口”

記憶に直結する感覚入力には、主に以下の3つがあります:

感覚具体例記憶への影響
視覚文字を見る/形を認識する漢字・図形・地図などを覚える
聴覚説明を聞く/言葉を捉える語彙・文章・英単語の記憶
運動感覚(運動記憶)書く/声に出す/体を動かす体で覚える・手順を覚える

→ このどれかが不安定だと、「覚えにくい」「思い出しにくい」になる。

✅ 専門家が見る視点:「記憶力の前に、入力感覚を整える」

作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)・発達心理士などは、

  • 視覚刺激に対する反応の速度と正確性
  • 聴覚情報の一時保持(聞いた内容をすぐ復唱できるか)
  • 「聞いた/見たことを動きに変換できるか」(動作模倣)

などから、「どの感覚が記憶の入口として機能しているか」を見極めます。

Gathercole & Alloway (2008)
「作業記憶は“入ってこない情報”を保持することはできない。まず“確実に受け取る”感覚処理が重要。」

✅ 家庭でできる!“感覚から記憶を育てる”アプローチ

① 書く前に「指でなぞる」「空中書き」を入れる

→ 目+指の運動で、視覚記憶+運動記憶を刺激

② 読む・聞くときは「ジェスチャー」や「体の動き」をつける

→ 体の動きが記憶の“ひもづけ”になる(例:九九は歩きながら)

③ 「見て覚える」より「説明しながら覚える」へ

→ 記憶の定着には“アウトプット(話す・教える)”が最強の入力

④ 感覚入力の“好み”に合わせる

→ 視覚優位:図・色・動画/聴覚優位:音声・リズム/体感覚優位:体で覚える、実演する

✅ よくある誤解と真実

誤解実際は…
「記憶力が悪い」入力処理が弱く“覚える前にこぼれている”可能性
「何度書いても覚えない」感覚の入り口が合っていないだけで“方法の工夫”で変わる
「集中してないから覚えられない」感覚処理がスムーズなら“自然に覚えられる”ことも多い

✅ 保護者ができるサポートの姿勢

  1. 「なぜ覚えられないの?」ではなく「どう入力しているか?」を観察する
  2. 一つの方法でダメでも、“感覚を変えたら入った!”を探す
  3. 覚えられた=成功ではなく、“つかめた”感覚を増やすことが第一歩

■ まとめ:「記憶が苦手」は、“覚える前のステップ”に原因があるかもしれない

記憶とは、才能や根性の話ではなく、感覚がどう情報をキャッチしているか?で大きく変わります。

だからこそ、
「覚えられない…」と悩む子に対しては、
“どの感覚から入るとつかみやすいか”を一緒に探すことが、学びの鍵になるのです。