「あれ、なんだっけ…」

「…わかんない」「…忘れた」
「前に言ったでしょ?」に対しての“記憶喪失モード”

──そんなとき、大人はついこう思ってしまいます。

「絶対覚えてるのに」
「答えたくないだけでしょ」
「ごまかそうとしてるんだな」

でも実はその“忘れたフリ”、脳がストレスや負荷を感じたときに“情報との接続を意図的に切る”防衛反応かもしれません。

■ 脳は「ヤバい」と感じたとき、情報のスイッチを切ることがある

人は極度のストレスを受けると、
脳内の“作業記憶”や“思い出す回路”が一時的にシャットダウンすることがあります。

✋つまり「忘れたフリをしている」のではなく、“本当にアクセスできない”状態になっている可能性があるのです。

✅ チェック!“記憶回避型”の子どものサイン

  • 明らかに知っていることなのに「知らない」と言う
  • 間違いを指摘されたり、叱られた直後に「忘れた」と答える
  • 質問された瞬間に黙る or 話題を変える
  • 普段はできることが、“指摘された場面”ではできなくなる
  • できないときに“身体がこわばる”“表情が固まる”様子がある

→ これらは、“答えたくない”ではなく、“脳が情報とのつながりを遮断している”可能性があります。

✅ 背景にあるのは「認知的回避」+「神経の保護モード」

このような反応が起きる背景には:

● 失敗=脅威反応

→ 間違える・叱られる=「自分の価値が危ない」と感じ、脳が回避行動に入る

● 認知過負荷

→ 一度に処理すべき情報が多すぎて、情報へのアクセス自体を“切る”選択をする

● 防衛的シャットダウン

→ 自律神経が“危険”と判断し、思考・記憶を止めて“守る”方向へ逃げる

🧠 特にHSP傾向・感覚過敏・自己否定感が強い子ほど、
“忘れたふり”が無意識の“生き残り戦略”になっているのです。

✅ 専門家の視点:「“答えない”はズルではなく“反応できない”こともある」

心理士・OT・特別支援の現場では、このように見立てます:

  • 「忘れた」と言ったときの身体反応(顔色・筋肉・視線)を観察
  • 脳が“考える状態”にあるかどうかを確認
  • 叱責や圧がかかるほど、記憶回路が“遮断”されることを前提に関わる

Dan Siegel(神経発達理論)
「脅威下にある脳は、過去の記憶や学習にアクセスできない構造を持っている」

✅ 家庭や学校でできる!“脳の遮断”を解除する対応5つ

① 「答えなくていいよ。思い出せたらでOK」

→ 圧を抜くことで、脳が“安全”と判断し、記憶回路が開きやすくなる

② 「思い出せないのは悪くない。むしろ、よくがんばってるね」

→ “忘れた=逃げ”というラベルを外すことで、再挑戦への抵抗が減る

③ 問い詰めず、視線を外したまま・体の向きを変えて話す

→ 目を合わせず、“脳が安心する環境”を整えるだけで反応が変わる子も多い

④ すぐに答えを求めず、“待つ”を選択肢に入れる

→ 「今思い出せなくても、あとでOK」「紙に書いてもいいよ」とアウトプット方法を選ばせる

⑤ “戻って答えられたとき”を最大限に認める

→ 「思い出したね!よく戻ってこれたね」=“脳の回復”に成功した瞬間を評価

✅ よくある誤解と真実

誤解実際は…
「忘れたふりをしてごまかしてる」脳が“本当に情報との接続を切っている”可能性がある
「答えたくないだけでしょ」記憶回路が閉じているので“答えられない”状態
「わざとやっている」本人も“自覚がない”まま反応しているケースが多い

✅ 保護者・支援者の視点転換

  1. 「覚えてない=ズルい」と思わず、「思い出す余裕があるか」に目を向ける
  2. “正確な記憶”より、“安心して脳が働ける環境”を整えることが先
  3. 「今じゃなくていいよ」も立派な支援になる

■ まとめ:「“忘れたフリ”」は、“ズル”ではなく、“脳のストレス遮断スイッチ”かもしれない

その子は、記憶を操作しているのではなく、
“今この場でこれ以上の情報を扱うのが苦しい”というSOSを出しているのかもしれません。

だからこそ大人は、
「思い出させる」よりも、「安心して“思い出せる自分”に戻る時間を与える」関わりを選ぶ必要があるのです。